GOODSMILE RACING & TeamUKYO RACE REPORT 8
2019 AUTOBACS SUPER GT Round 7 SUGO GT 300km RACE
会期:2019 年9月21日~22日
場所:スポーツランドSUGO(宮城県)
天候:曇/雨
観客: 37,100 人(2 日間)
予選:6位
決勝:2位
獲得ポイント:15P
シリーズ順位:3位(41.5.5P)
■FreePractice_QF1-2
2019年SUPER GT、シーズン天王山の第7戦が9月21~22日にスポーツランドSUGOで開催された。天気予報では台風17号の影響により週末を通じて不安定な天候で、波乱が予想された。
GOODSMILE RACING & TeamUKYOの谷口信輝選手/片岡龍也選手は、今シーズンはここまで性能調整や路面とタイヤのマッチングに苦しんできたが、前戦オートポリスでもゴール1周前でオーバーテイクを決めて4位に入るなど、最後まで諦めない戦いを披露してきた。
ここSUGOでは、シリーズランキング首位の55号車(ARTA NSX GT3)の前でゴールする事を目標に、今回は谷口選手のドライブで土曜日9時からの公式練習を走り始めた。しかし、持ち込んだ2種類のコンパウンドは、路面温度が想定より低い21度だったせいか、「どちらのタイヤもタイムは悪くないけど、すぐボロボロになってしまう感じ」(谷口選手)と、走り始めは手応えの悪い状況だった。このスティントではタイヤ評価を中心にメニューをこなし、1分18秒710の自己ベストを記録してバトンタッチ。
10時からステアリングを握った片岡選手は、サーキットサファリがなく走行枠の少ないSUGOで、ブレーキの焼き入れなどのレース準備も行いながら忙しくショートランを重ねる。GT300クラス占有走行時間に予選シミュレーションを行った際 、1分18秒702と、わずかにタイムを更新してクラス9番手タイムでセッションを終えた。
公式練習の結果を踏まえ、チームはタイヤ評価を担当した谷口選手を予選Q1、片岡選手をQ2アタッカーとして申請した。今回の予選Q1では開幕戦岡山以来となる組分け方式が採用され、クラス全28台のマシンがシリーズランキング別に振り分けられ、4号車はB組で出走する事になった。
14時18分、予選Q1B組が開始される。34号車(Modulo KENWOOD NSX GT3)や18号車(UPGARAGE NSX GT3)らと近いポジションでコースインした谷口選手は、最初のアタックで1分18秒689を記録し、続く周回では1分18秒357へと縮めて2番手を確保し、余裕でQ1を突破した。
その勢いを継ぎ16台での勝負となるQ2を担当した片岡選手も、午前の感触が苦しかったにも関わらず、「上手くいけば1分17秒台には入れられる」と意気込むと、そのまま最初のアタックラップで見事に1分17秒828をマーク。「コンディションも上がってきて路面の状態が良くなっており、不満のある動きではなかった」(片岡選手)との言葉どおり、現状のマシン性能を最大限引き出しつつ、最終的に3列目6番グリッドを獲得した。翌日の決勝レース開始時間14時の予報は高確率で「雨」と出ていたこともあり、雨中の視界確保の意味でもシングルグリッドは大きな意味がある。
■Race
決勝レーススタート直前、12時25分開始のウォームアップ走行セッションでは路面はドライ。シリーズ第7戦となるこのラウンドでは、積算獲得ポイントによるウエイトハンデが軽減され、通常のウエイト×2kg相当からウエイト×1kg相当となる。これにより27kgのウエイトを搭載した4号車で最後のドライバランスをチェックした片岡選手は、1分20秒台から22秒台のレースペースを確認した。ただし本当のロングランでどの程度ライフが保つのか、グリップダウンがいつやってくるかは未知数のままスタート進行を迎えた。
すると、グリッドウォークを前にサーキット上にはついに霧雨が降り始め、その後も段階的に雨脚が強まる。とうとうスタート開始5分前ボード掲示時点で、レースコントロールから「SCスタート」の判断が下される。
グリッド上では、全てチームが路面の色が変わり始めた路面と雨雲を交互に見上げ、スリックタイヤで行くかウェットで行くのか、最後の判断を迫られていた。チームは「とりあえずいつも挑戦して”しくじる”ので、今回は無難に」(片岡選手)との思いや、ランキング首位の55号車が早々にウエットタイヤ装着を決断していたこともあり、セオリー通りウェットタイヤで決勝をスタート。
すると「水量は減るのではないか」との想定でハード目のコンパウンドを選択した判断も功を奏し、SCが外れ、実質的なレース開始となった4周目に5番手スタートの7号車(D’station Vantage GT3)をかわし、その7号車と同じくスリックタイヤを履いていたポールシッターの61号車(SUBARU BRZ R&D SPORT)や25号車(HOPPY 86 MC)も抜き去り、4番手へ。
さらに8周目と10周目には「スタート時点でスリックを履いていたマシンに引っかかって前に行かれていた」(片岡選手)33号車(エヴァRT初号機 X Works GT-R)や56号車(リアライズ 日産自動車大学校 GT-R)らGT-R勢を大きなロスなく相次いでオーバーテイクし、前戦に続く”片岡劇場”を繰り広げる。
その後、SPコーナーで絡みスピンしたGT500車両をすんでのところでかわすあわやの場面も経ながら、首位の55号車を追走する。
その時後方から凄まじい勢いで迫ってくるマシンが1台。65号車(LEON PYRAMID AMG)が、BSタイヤの完全なウォームアップを終えてラップあたり2秒を削る勢いで近づいてくる。さらにコース上の雨量が増してくる厳しいコンディションの中、その追走に反応した片岡選手も圧巻のスパートを見せ、21、22周目と立て続けに1分29秒台のベストタイムを連発。さらにテール・トゥ・ノーズ状態となった29周目には超接近戦のディフェンス中にも関わらず、自己ベストの1分29秒287で応戦する素晴らしいドライビングを披露する。
しかし35周目。「雨量が少ない時はまだちょっと『勝負できるかな』と思ったんですけど、向こうのタイヤが温まったら急にペースが上がってきて、その上で雨が急に増えたら向こうの方が2秒ぐらい速くなっちゃった。これはまあ『いずれは行かれるだろうな』と思ってたら、入られちゃった」と振り返りつつ、10周以上も抑え抜いたバトルが終了。
このタイミングでさらに雨も増していたため、無線で「もうハード側では無理」とピットに伝えていた片岡選手は、36周目にピットロードへと飛び込んでいく。チームも事前にピットが隣合う65号車にタイミングを確認し、作業が重ならないよう配慮していたが、このタイミングでGT500車両のスピンによりSC導入の機運が高まった為、その65号車もピットレーン・クローズを察知して急遽、ピットへと向かう。
「一瞬『うわ~』と思ったけど、僕らもタイミングとしては良いタイミングだった」(片岡選手)。今シーズンはSCに泣かされ続けたチームにとって、”今季初”と言える最適タイミングでドライバー交代を終え、谷口選手にステアリングを託してコースへと復帰。
片岡選手の助言により1ランク柔らかいコンパウンドのウエットタイヤを履いた谷口選手は、SC先導中に無線でコース状況をヒアリング。「片岡に『基本、アウトアウトなんだろうけど、アウトを通っちゃダメなところを教えてくれ』って。前半で調べてるだろうから。そこはかなり役に立った」と、リスタートから今度はスライドコントロールの神様によるショータイムが開演。
「最初はセーフティカーについてくのも『まあまあ滑るんですけど』っていう。隊列を整えるまでね。『いやあ、これはまったく追い上げられる気しないな』と思ってたんだけど、始まってみたら俺よりも周りの方がもっと厳しかったみたいで」と、同条件で温まりにメリットのある柔らかい側のコンパウンドも効果を発揮し、最終コーナーではウエットの鉄則であるアウト側のラインを選択して65号車を豪快かつ華麗にオーバーテイク。
「谷口さんに代わってから、無線で『喰わない』って言ってるから、(コンパウンドのポジションを)2ランク下げた方が良かったかな、っていう心配はあったんですけど、結果オーライだった」(片岡選手)と、相棒を安心させるスパートで、約4.5秒ほどあった首位55号車とのギャップを一瞬で詰め、秒差圏内のバトルに持ち込んでいく。
46周目には0.449秒まで詰め寄った2台の首位バトルは、しかし燃費セーブから一転、燃料量が保つと判断した55号車が終盤にスパートを見せ、さらにはタイヤライフの終わったGT500車両に引っ掛かるなどの展開もあり、今回のテーマであった「55号車の前でフィニッシュ」することは叶わず。それでも苦手なSUGOで今季最上位となる2位を獲得し、ふたりは2019年シーズン初ポディウムに上がることとなった。
これでドライバーズランキングは3位に浮上し、首位とのポイント差はジャスト20点。最終戦もてぎでの逆転タイトル獲得への条件は、「ポールポジション(1点)+優勝(20点)+55号車の無得点(96号車は3位以下)」という「薄皮一枚」(谷口選手)の状況ながら、まだシリーズタイトルへ向けた勝負は終わっていない。
■チーム関係者コメント
スタートのタイヤ選択も、周囲にウエットの方が多いようだったら、飲まれる、団子になる、みたいな状況を避けられる。だから多い方に合わせるのが正解だと僕は思ってたんです。その選択以上にコース上の片岡はすごく頑張りましたよね。今回はピットのタイミングがこれまでとは決定的に違ってましたけど、あれはSCが出そうだからピットに呼んだんじゃなくて、雨量が増えてやはりBS勢と差が出始めたから入った。そして偶然、SCが入ったと。だから今回は、ツイてたんですね。そして、あの状況の谷口は非常に強い。衝撃的でしたよ、「なんで追いついてんの?」って。無線では「まったくグリップしない」って言いながらですからね。最終戦も何が起こるか分かりませんから、頑張ります。
こうなると、この前のAPと、その前のタイが異常に悔しい。今回のピットは正しいタイミングで、タイヤも正しいチョイスだった。すごく良かったと思います。片岡が粘りに粘って状況も見極めてくれて、谷口へ繋ぐときも本当に良い内容の連携だったし、走る前から滑る場所を情報交換してたり、今日はできることを全部やった。タイヤの性能的にはBSの方が明らかに良いのは分かってるけど、それをドライバーのパフォーマンスとかチームの連携でカバーしてましたから、ウチのチームらしい良い仕事だったかな。選手権は徳俵の上の髪の毛、首の皮一枚だけど、残ってること自体が大事なんで。理論的に脱落したわけじゃない、ってのは意味がありますからね。
今回はやっと「普通に」セーフティカーを喰らわずにレースができた。今回のレースで55号車の前に行かなかったら、もてぎに行っても圏外になってしまうので、まずは片岡がすごくいい感じでレースを運んでくれた。自分の番はとにかく飛んだら飛んだでしょうがないから、プッシュしようと。最終的に55号車には届かなかったんですが、我々がこの天気で2位になれたのは、かなり上出来だったかな。久しぶりの表彰台だし去年3位で、今年2位で。来年、何位だろうね(笑)。ドライの土曜までは表彰台は見えていなかったから、その意味では「恵みの雨」になったのかな。次はポールと優勝しかないけど、薄皮一枚。次戦のスローガンは「こっからひっくり返したら大したもんだ」で(笑)。
ハード目のタイヤ選択が当たって、序盤は比較的パフォーマンスに差があったせいか、他チームも無理(防戦)をせず、こちらはロスなく抜いてました。僕のスティントは人と争ったような感覚はあんまりないんですが、思ったよりウエットの中でも戦える感触、手応えがありました。55号車に対しては、雨量が少ない時はまだちょっと「勝負できるかな」と思ったんですけどね。雨量が増えて、自分的に「もうギブギブ」っていう感じでピットへ入るタイミングでSCが出てくれたんで、ツキもありましたね。切れかかってる綱ですけど、切れてるよりは切れてない方がいいんで。そういう意味では、ファンもの皆さんもわずかでも希望は持てるわけし良かったなと思います。