GOODSMILE RACING & TeamUKYO RACE REPORT 9
2019 AUTOBACS SUPER GT Round8 MOTEGI GT 250km RACE
会期:2019 年11月2日~3日
場所:ツインリンクもてぎ(栃木県)
天候:晴
観客: 56,000 人(2 日間)
予選:7位
決勝:5位
獲得ポイント:6P
シリーズ順位:4位(47.5P)
■FreePractice_QF1-2/現状1766w
11月2~3日、SUPER GT 2019シリーズを締めくくる第8戦がツインリンクもてぎで開催された。
プロジェクト11年目のシーズンを戦ってきたGOODSMILE RACING & TeamUKYOの谷口信輝選手/片岡龍也選手は、ドライバーズランキング3位で、チームにとって4度目のシリーズタイトル獲得の可能性を残してこの最終戦の地に入った。
しかし3位からの逆転は容易ではない。予選ポールポジションの1ポイントを獲得した上で決勝でも1位、且つランキングトップの55号車がノーポイントでレースを終える事が必須という厳しい条件だ。
最終戦は、累積獲得ポイントに応じて課されてきたハンデウエイトが全て降ろされ、ノーウエイト勝負になる。しかし厳しい性能調整(BoP/バランス・オブ・パフォーマンス)に泣かされてきた2018年型メルセデスAMG GT3、グッドスマイル 初音ミク AMGは、ここでもBoPウエイト+40kg、車両重量1325kgと、相変わらずGT3規定マシンの最重量車種に君臨する。
土曜日の今季最後の公式練習に臨んだ片岡選手は、いつもどおり路面コンディション改善を待ちつつ、セッション開始時刻の午前8時50分より少し遅れたタイミングでコースインする。走行開始後すぐに1分47秒032とまずまずのタイムをマークし、その後マシンバランスとタイヤの状況を見極めながらショートランを繰り返す。
逆転チャンピオンへの最初の必須条件は、予選ポールポジション獲得。だが、その後の決勝レースまで見据えた結果、今回持ち込まれたタイヤは正常進化版のコンパウンドだった。
このタイヤはセッション開始時点の気温14度、路面温度20度という低温コンディションでは、グレイニング(タイヤのささくれ)が起こり、その後路面温度が上がり始めると今度はピックアップ(タイヤゴムのカスがトレッド面に付着する現象)に悩まされた。しかしライバル陣営も同様の傾向に苦しんでいる様子。そんな状況のなか、片岡選手は午前10時を前に谷口選手にバトンタッチする。
谷口選手は、1分49秒台を軸に決勝を見越したレースペースの確認を行ったのち、予選シミュレーションで1分48秒483の自己ベストを記録してセッションを終えた。
公式練習の結果はクラス11位。「走り始め、ライバルも速い中で『行けなくもないかな』という手応え(片岡選手)」を得て、運命の予選に挑むこととなった。
ファンにはおなじみ『もて岡』こと「”もて”ぎが得意な片”岡”」選手をQ2アタッカーに据え、ノックアウト方式の予選Q1は谷口選手が担当する。公式練習のセクターベストをつなぐと1分46秒4のタイムが見えていたため「46秒フラットがターゲット(片岡選手)」との期待を胸に挑んだ運命のセッション。しかしここでまさかの事態が発生する。
「ストレートで210km/hを超えてくるとフロントがバタバタと暴れ始めた(谷口選手)」
マシンは何らかのトラブルに見舞われ、本来の空力性能が発揮できない。V字コーナー立ち上がりでも大きくスライド、さらに最終ビクトリーコーナーでは暴れるマシンに手を焼き、縁石イン側に立つソフトポールをなぎ倒してしまった。それでも、「ポール取った(谷口選手)」と冗談交じりに振り返った谷口選手は絶妙なコントロールを駆使し、クールダウンを挟んだ2度目のアタックで1分47秒141を記録して13番手をマークする。手負いのクルマながら見事にQ1突破を果たした。
しかしQ2までにトラブルの症状を改善することは叶わなかかった。片岡選手は、ダウンヒルストレートでは「振動で前が見えない」状態ながら、公式練習セクターベストを繋いだタイムに等しい1分46秒410を記録し、その時点で2番手をマークした。
そのままターゲットタイムの46秒フラットに向け連続アタックへと向かうも「まともに走れる状態じゃない」状況で、残念ながらタイム更新はならず、逆転チャンピオンへの最初の必須条件であったポールポジション獲得は実現しなかった。
1分45秒907のコースレコードでポールポジションを獲得したのは720号車(McLaren 720S)。2番手の56号車(リアライズ 日産自動車大学校 GT-R)も1分46秒033を記録するなどライバル勢のタイム更新により、4号車は最終的に7番手で予選を終えた。
波乱続きだった2019年チャンピオンへの戦いはここで終った。
■Race
チャンピオン獲得の可能性を失って迎えた日曜決勝日。ウォームアップ走行でマシンの修復を確認し、今年最後の決勝グリッドへ。
レース距離250km、53周とシリーズ中最短距離のレースでもあるため、ドライコンディションでは抜きどころが無いと言われるツインリンクもてぎでは上位浮上がますます困難だ。そのためチームは事前の作戦シミュレーションに”タイヤ無交換作戦”もオプションの1つに織り込んでレースへと臨んだ。
天気予報では雨の心配もあったが、当日のサーキット上空は曇のまま雨粒が落ちることはなく、決勝を通じて気温20度前後、路面温度23~24度の安定したコンディションでの戦いとなった。
ホームストレートのイン側、7番グリッドからスタートした片岡選手は、1コーナーで前方の33号車(エヴァRT初号機 X Works GT-R)に並ぶと、そのままオーバーテイクを決め6番手でオープニングラップのコントロールラインを通過した。
単独走行では1分49秒台、GT500クラスと絡み始めて以降も1分50~51秒台を維持して安定した周回を重ねると、11周目には首位から陥落してきた720号車も仕留めて5番手へと浮上する。
その頃、5コーナーを過ぎたファーストアンダーブリッジ先ではGT500クラス車両がエキゾーストから炎を上げコースサイドにストップ。セーフティカー(SC)導入の可能性がチームをよぎるが、FRO(ファースト・レースキュー・オペレーション)が消火活動に急行し、今年ここまでチームを翻弄してきたSCは回避された。
ピットウインドウを迎えて上位勢がタイヤ交換とドライバーチェンジへと向かう中、片岡選手は3番手までポジションを上げ、20周目に谷口選手に交代した。
このピットインを前に、ライバルの状況を確認していたチームは、谷口選手への交代に伴いタイヤ無交換ではなく「左側2輪交換」を決断。4号車の後方に大きなギャップがあった為、安全策を採用した形だ。8番手でコース復帰した谷口選手はここから粘りのドライビングを披露する。
前方のピットイン未消化組がいなくなった26周目に5番手へ上がると、前を行くブリヂストンタイヤ(BS)装着のランキングトップ55号車(ARTA NSX GT3)を追走。さらに31周目にはここまで2番手を守っていた56号車がバックストレート手前で電装系トラブルにより一時ストップしたことで、4番手にまでポジションを上げる。
しかしこの週末のBS勢はいつにも増して強力だった。予選でスピンを喫してQ1敗退し17番手からスタートしていたランキング2位の96号車(K-tunes RC F GT3)が怒涛のペースで後方から迫り、39周目の90度コーナーで追いつかれると、抵抗する術なくオーバーテイク、4号車は再び5位に転落する。
96号車は55号車にも競り勝って3番手に上がる驚異的な速さを発揮し、4号車は2秒前後のギャップで4番手55号車を追走するも49周でチェッカーを迎えた。
ゴール直前の最後の最後で首位を走行していた65号車(LEON PYRAMID AMG)がガス欠によりスローダウンし、11号車(GAINER TANAX GT-R)に優勝を奪われるという波乱があったものの、4号車グッドスマイル 初音ミク AMGは5位で2019年最後のレースを終えた。
これにより、2014年から続いたここツインリンクもてぎでの連続表彰台記録も5回で途絶えてしまった。しかしドライバーズランキング4位、チームランキング3位と、厳しいなかでも常にチャンピオンに向けた戦い方ができる”強いチーム”であることを改めて証明した。
2017年のタイトル獲得から2年、「ここから来年に向けて何ができるのかが今後の課題(片岡選手)」「今年も負けた。来年は勝つぞ(谷口選手)」と、チームの2020年シーズンはもう始まっている。
■チーム関係者コメント
今回はポールポジションを獲るのが絶対条件でしたので、その準備をしてきましたし獲れると思ってたんですが、マシントラブルがあって片岡選手が充分なアタックができず、そこは残念でした。
ただ決勝の様子を見ていると、どのみち簡単に勝てるレースではなかったかなと。もてぎは例年得意だったんですけど……今回はとくに道具の差が大きかった。メルセデスで1位、ヨコハマタイヤでも1位だから今のパッケージでこの順位は悪くはないのでしょうが、年間を通して”耐えるだけ”だったのでフラストレーションが溜まりましたね。
今季でプロジェクト11年目でしたが、最も戦えてないシーズンになってしまいました。この状況を打破できるよう、来季に向けて頑張ります。
残念の一言しかないシーズンでした。作戦も悪くなかったのに今年は不運が多かった。それからライバルとの道具の差や性能調整も大きかった。同じ道具を使うチーム内ではトップだったというのは自分たちが頑張ってる証拠ではあったけれど、ライバル勢の進化が速くチャンピオンシップはますます難しくなりました。
最終戦に来るまでにできることは全部やって取れるポイントを削り取るように積み重ねてきました。取りこぼしたタイやSUGOでSCタイミングが違ったら結果は大きく違ったと思います。”タラレバ”を言い出したらキリがないけれど。
相対的な戦力では厳しくても、結局第一線で戦えていたという点に関して、このチームは本当に強いチームだし、良いドライバーたちだなと思います。
ポールを逃した時点でチャンピオンがなくなりましたが、そもそも穫れる力があったのかと言えば……微妙でしたね。客観的に見てポテンシャルで負けてた。
それに今年は本当に毎週末、GTのたびに雨が絡むし、SC出動がとにかく多くて、そのSCのタイミングがいちいち悪い。今振り返って思うと、雨とSCでだいぶ損したなって思いますね。例えばオートポリスで雨が降らなかったら勝ってたんじゃないの?とか、タイでSC入んなきゃ、そこそこ上だったんじゃないの?とか。
一応チャンピオン争いの輪に加わわれてたのは救いでしたが、ただ僕はチャンピオン以外は例え2位でももう全部負けなんで、来年こそはチャンピオン獲りたいと思ってます。
この最終戦の結果が、今シーズンの力を端的に現していたと思います。もちろんベストは常に尽くしてきましたが、そもそもの力が足りず、我慢のレースばかりでした。そうやって我慢し続けたらシーズン後半に少しチャンスが巡ってきた。前半はどん底レベルだったところからチームで力を合わせて一応チャンピオンの権利を持って最終戦に来れたので、それは本当に良かった。
元々狙って勝ちに行くだけの力の差を持ってないのは分かっていたので、負けないようにやらなきゃいけなかったんですが、簡単には行きませんでした。スタート直後のタイヤが冷えてる間だけはうまく前の車を抜けましたが、温まったあとはやっぱり苦しく、前の車に引き離される展開でした。そういう、今年1年を象徴するようなレース内容でしたね。悔しかったです。この状態を踏まえ来年に向けて何ができるか、考え抜いて実行しないといけませんね。