SUZUKA 10 HOURS
8月25日 予選21位
8月26日 決勝5位
800kmの長距離レースは2位で今季初表彰を獲得
■8月25日(土) ピレリタイヤと赤旗に翻弄され予選は21位
夏の風物詩と謳われた「鈴鹿1000km」が昨年で終了し、今年からSUPER GTシリーズから外れた新しいレースとして第47回サマーエンデュランス「鈴鹿10時間耐久レース(SUZUKA 10 HOURS)」がスタートした。
GT500クラスとGT300クラスが混走するSUPER GTとは異なり、このレースはGT3(JAF-GT、マザーシャーシを含む)規格のマシンのみで戦われる。タイヤがピレリのワンメイクという点もSUPER GTと大きく異なる。この第1回大会には、メルセデスAMG、ポルシェ、BMW、アウディ、フェラーリ、ランボルギーニ、マクラーレン、ベントレー、シボレー、ホンダ、ニッサンなど、多様なメーカーのスーパーカーを携えたチームが、ヨーロッパ、アメリカ、アジアから集結する事になった。参加チームは全35チーム、うち日本勢は14チームと、名実共に国際レースの様相を呈した。
昨年のSPA24時間レースのリベンジを目標とするGOODSMILE RACINGは、同じマシン(Mercedes-AMG GT3)、同じドライバー(谷口信輝、片岡龍也、小林可夢偉)、同じ監督(片山右京)に、メンテナンスガレージをSUPER GTと同じくRSファインが担当する布陣で臨む。 更に、Mercedes-AMGかパフォーマンスチームの認定を受け、チーム名を「Mercedes-AMG Team GOOD SMILE」に改め、特別なサポートを受けての参戦となった。
8月23日(木)、午前に予定されていた参戦車両による公道パレードは大雨で中止となったが、午後には天気が回復しプラクティスが始まる。翌24日(金)も終日プラクティスだったが、この間チームはピレリタイヤを使いこなすのに四苦八苦する。
そして25日(土)、予選はドライバー3名それぞれが計測したタイムの合計で競われる1次予選と、その上位20チームで競われる「ポールシュートアウト」と呼ばれる2次予選で構成される。1次予選で21位以下のチームは、順位がそのままスターティンググリッドとなり、上位20チームは「ポールシュートアウト」で再びグリッドを競い合うルールだ。
1次予選、プラクティスでの苦戦をよそに、谷口選手は「2‘03.750」、片岡選手が「2’04.032」、可夢偉選手が「2‘03.545」を記録し、合計タイムは日本勢最上位となる総合4番手につけて難なくポールシュートアウトへの参加資格を得た。
そして迎えるポールシュートアウト(2次予選)。初開催による運営の混乱があり、本来20台で競われるはずのところに24台が参加することになっていた。
担当する可夢偉選手はセッション終盤、渾身のアタックに入るが、ここでチームに不運が振りかかる。セクター1自己ベスト、セクター2全体ベストを記録して、上位通過の期待が高まったその時、可夢偉選手の後方で他チームのマシンがコースアウトして赤旗が出てしまったのだ。残り時間が少なかった為そのまま予選は終了となり、最終的な予選結果は21位に。最後までアタックできていれば、シングル順位は確実だと思われるペースだっただけに悔やまれる。
■8月26日(日) 世界の強豪チームと渡り合い、5位でゴール
26日(日)、決勝日はレースウィーク中最も気温の高い1日となった。午前10時、気温は早くも32度、路面温度も44度まで上がる猛暑の中、決勝レースはスタートした。
SUZUKA 10 HOURSの主なルールとして、1回のドライビングスティントは最大65分までと定められている。また、給油を伴うピットストップは82秒以上かけなくてはならない。82秒あればタイヤ4本を交換するには十分余裕がある為、同じ耐久レースでもSUPER GTとは大きく異なる戦略でレースを運ぶ。
最初のスティントは片岡選手が担当した。スタートに定評のある同選手、1周目に早速3台抜いて18位にポジションアップする。その後一時20位までポジションを落とすが22周目には18位に戻し、23周目にライバル達より早く1回目のピットインを行い、谷口選手に交代した。
第2スティント、谷口選手はアウトラップで32位となるも、その後他車が続々とピットインした事も手伝って、35周目には11位までポジションを上げる。だが、1つ前の10位を走る28号車(HubAuto Corsa)との差は大きく、ペースがほぼ同じだった為に順位が膠着する。50周目、11位のままピットイン、可夢偉選手へと交代した。
第3スティント、可夢偉選手は69周目に8位までポジションを上げるが、ペースが上回る66号車(AUDI SPORT TEAM WRT)に追いつかれ、一進一退の攻防を繰り広げる。なんとか66号車を抑えたまま79周目に3度目のピットイン。ちょうどこのタイミングで58号車(Garage 59)のマクラーレンがクラッシュした為、フルコースイエローとなり、80周目にはセーフティーカー(SC)が導入される。
第4スティント、可夢偉選手から再びバトンを受け取った片岡選手はSCの隊列に加わる形でコースインとなった。84周目にSCは解除となりレースは再スタート。再び後ろから迫り来る66号車を抑えつつ、前を走る911号車(Manthey-Racing)を追う。なんとか66号車に道をゆずることなく104周目に10位でピットイン、2度目の谷口選手に繋ぐ。
第5スティント、谷口選手のアウトラップは16位。好ペースで走行し徐々に順位を上げ、4時間を経過した時点で9位。この頃には888号車(Mercedes-AMG Team GruppeM Racing)のAMG GT3がトップで独走状態に入っており、00号車と同じ車とは思えぬハイペースで後続を引き離していた。
132周目に8位でピットイン、2度目の可夢偉選手と交代する。
第6スティント、可夢偉選手は150周目に75号車(Sun Energy 1 Racing AUS)のAMG GT3をパスして7位にポジションアップ、その順位のまま160周目にピットインして3回目の片岡選手へ。
第7スティント、この頃には後続との差も大きくなっており、片岡選手3度目のスティントはアウトラップでも7位を維持していた。しかし前を走る66号車との差も30秒以上あり、詰めることができない。189周目にピットイン。
第8スティント、レースは残り約3時間、谷口選手が自身最後のスティントに向かう。
前後とも大きく差がついておりレースは膠着していたが、ポールポジションからスタートした27号車(HubAuto Corsa)がクラッシュでストップした事により6位にポジションを上げる。この時点で前に07号車(Bentley Team M-Sport)、後ろに08号車(Bentley Team M-Sport)と、ベントレーに挟まれる形に。
07号車は00号車より1秒近く速いペースで差を広げていたが、214周目にトラブルに見舞われ突如スローダウン。これによって谷口選手は5位にポジションを上げる。この時、4位の車両まで40秒以上、トップの888号車にいたっては約2分もの差が開いており、すぐ後ろに迫っているような状況。追いつくのは至難の業だ。
218周目に8回目のピットインを行い、可夢偉選手へ。
第9スティント、可夢偉選手もこれが最後のスティントとなる。アウトラップで下がった順位は226周目に5位に戻った。背後からは08号車がじりじりと差を詰めてきていたが、別のマシンとバトルが始まり、このスキにまた差を広げる事ができた。
223周目、徐々に辺りが暗くなり、全車ライトオン。路面温度が下がってきたことで全車ペースが上がっていく。一時、後ろから44号車(Strakka Racing)のAMG GT3が1.8秒差まで迫るが可夢偉選手はこれを凌ぐ。
238周目、レースは残り1時間半。5位を維持しているがこの時には既にトップの888号車にはラップダウンされていた。
246周目、残り1時間で今回のレース最後のピットインを行いアンカーの片岡選手へ繋ぐ。
第10スティント、このスティントでレースは終了する。今回唯一4回のスティントを走る片岡選手はチームとファンの期待を背負って6位でコースイン。前を走る911号車はまだピットインが残っている為、実質5位。
鈴鹿サーキットは既に夕闇に覆われており、全車のライトと光るゼッケンプレートが帯となってコースを駆け抜ける。そこにサーキットからスタンドの観客に配布されたLEDペンライトの光と、スタンドの大屋根のライトアップ、更に鈴鹿のシンボルでもある観覧車のライトアップも浮かび上がり、幻想的な光景が広がる。
残り45分、片岡選手は好調なペースで5位を走るが、3.8秒後ろにいる08号車は片岡選手を上回るペースで走行しており、差が徐々に縮まっていた。残り40分で2.8秒、残り37分で1.7秒、このまま追いつかれることは間違いない。
260周目、ゴールまで残り32分。両車の差は遂に1秒を切り0.7秒、テールトゥーノーズ状態に。強烈なパッシングライトが真後ろから浴びせられ、片岡選手にプレッシャーがかかる。最高速に優れる08号車がストレートで襲いかかれば、コーナリングに優れる00号車はコーナーで逃げる。片岡選手は冷静にブロックラインを走り、08号車を苛立たせる。手に汗握るバトルが延々と続く。
この時、00号車が日本勢で最上位だったこともあり、テレビカメラやレース実況がこのバトルの行方に注目した。これに呼応したグランドスタンドでは、観客のほぼ全員が配布されたペンライトの色を初音ミクのトレードマークでもある緑色に設定して声援を送った。巨大なスタンドが緑一色に輝く驚くべき光景が広がる。
この光景はメインストレートを通過する片岡選手の目にも届いていた。その甲斐もあって、片岡選手は08号車の猛追を振り切り、00号車を5位のままゴールに運ぶことができた。上位4台に1周足りない275周でのゴールだった。
Mercedes-AMG Team GOOD SMILEは、このレースで表彰台に乗る事こそ叶わなかったが、ワークスドライバーを多数擁する海外強豪チーム勢を相手に一歩も引くことなく戦い切り、5位という結果を残した。
アジア人ドライバーが2人以上で構成されるチームが対象のアジア賞では1位を獲得した。
特に、最後の1時間に繰り広げられた08号車との緊迫したバトルは、見る者に感動すら与えたとメディアから評された。
昨年のSPAのリベンジを果たしたとまでは言えないが、チームの一歩前進した姿を見せる事ができたと言えよう。
■チーム関係者コメント
良いレースでしたね。強豪チームもわかったし、ピレリタイヤでの戦い方もわかった。ちょっと間に合わなかった部分もありますが、日本を出て世界で戦うことの難しさを改めて知りました。前(SPA24時間)は一歩も踏み出せずに終わってしまったけど、今回はドライバーもチームもミスなく走れて、最後は感動的なシーンもありましたしね。見応えのあるレースができたかなと思います。
予選は悔しかったけど、無事に終わってホッとしています。今までいろんなレースを見てきたけど、五本の指に入るくらい、良いレースでした。日本人だけでヨーロッパのワークスやアジアの強豪チームを相手にして、これだけ勝負できるということは、このチームは本当に強い。朝、メカニックにトラブルがあって、タイヤ交換をすぐに別の人がやりましたが、何があってもすぐにフォローできるくらい結束力がある。河野エンジニアのストラテジーも冷静でしたし。スパのリベンジができたかと言われれば、違うかもしれないけど、でも自分たちが立っている場所は確実に証明できたんじゃないでしょうか。
今回の5位は我々として今できる最善の結果かと。世界に追いつくにはまだまだだなと思います。ピレリタイヤはなかなか難しかったですね。また予選は21番手でしたが、もしポールを獲ってても決勝の結果はこの位置だったんじゃないかと。上位のライバルたちが速すぎました。とはいえ、この鈴鹿10時間レースは、本当に楽しかったです。海外の強豪たちと腕比べしたり、GT3だけで走ったり、タイヤワンメイクだったり、しっかりとした賞金も鈴鹿さんが用意してくれて、レースとはこういうものだなと再確認できました。
ミスなくみんなで繋いで、やりきった10時間でした。そして世界の壁の厚さも確認できました。最後のスティントは、抜かれたらマズイなという状況だったんですが、なんとか抑えきれたし、結果は5位だけど楽しかったですね。ただ、世界一なんて全然見えなかったので、チャンスがあればまた挑戦したいです。グランドスタンドの緑色はクルマを降りてからちゃんと見たんですけど、感動的でしたね!
スパのリベンジということで挑んだんですが、結果的には21位から5位でした。ただ、今の僕らにできる最大限のレースだったと思います。正直、トップを獲るにはまだ力不足だと感じましたが、スパのような結果ではなく、ちょっとは戦えたかなと。爪痕を残せたのは良かったですね。最後のバトルは僕もドキドキしながら見てましたし。そして、このようなチャンスをくれた安藝代表にも感謝したいです。