GOODSMILE RACING & TeamUKYO RACE REPORT 8
2020 AUTOBACS SUPER GT Round8 たかのこのホテル FUJI GT 300km RACE
会期:2020年11月28日~29日
場所:富士スピードウェイ(静岡県)
天候:晴
観客:発表なし
予選:24位
決勝:15位
獲得ポイント:0P
2020年シリーズ総合順位:8位(36P)
<Sat.>
■FreePractice_QF1-2
7月に開幕したSUPER GT 2020もいよいよシーズンフィナーレを迎える。例年の最終戦よりも遅い11月28~29日、既に冬が到来した富士スピードウェイで、激動の2020年シリーズ最後のレースが開催された。
今シーズン、最終戦GT300クラスでシリーズチャンピオン獲得の可能性を残すチームは全部で7チーム。GOODSMILE RACING & TeamUKYOの谷口信輝選手/片岡龍也選手もその一角に食い込んだ。しかし、この7チームの中で最も獲得ポイントが低いため、逆転チャンピオン実現には、予選ポールポジションで1P、決勝レースは優勝で20Pと、このレースで最大限にポイントを獲得しつつ、ライバル達は総崩れとなって大量ポイントを獲得しないという、最高難易度且つ他力も必要という条件をクリアする必要があった。第6戦、第7戦と連続で表彰台を獲得して勢いに乗るチームは、最後の大勝負と幸運への期待を背負い、今シーズン4度目となる富士スピードウェイに乗り込んだ。
SUPER GTのレギュレーションにより年間の戦績に応じて加算されるウエイトハンデ(WH)は、最終戦の1つ前のレースでは『半減』、最終戦では『なし』と減じられる為、このレースでは全車がウエイトを下ろしての出場になる。これに加え、2020年型Mercedes-AMG GT3に対しては、車種別で課せられるBoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整)も5kg減の+60kgと変更され、過去3戦の富士と比較しわずかに改善された。
迎えた土曜日。今年富士で行われたレースの予選結果は、開幕戦の18位、第2戦10位、第5戦では8位だった。これら全てを上回り、ポールポジションを獲得する事を目指してセッティングを詰めるべく、谷口選手のドライブで公式練習がスタートする。
天気は晴れているが、セッション開始時点の午前9時で気温14度、路面温度16度と低く、強い風が吹く初冬の気候。精力的にショートランを繰り返した谷口選手は、GT500クラスとの混走セッション90分間を通じてステアリングを握り、マシンの改善作業に没頭。セットの最適化を終えて引き続き10分間のGT300クラス占有枠でも予選シミュレーションを担当すると、1分36秒960のベストタイムを記録して都合40周を走破した。しかし、ストレートエンド、1コーナー手前の最高速計時では270km/hに届かず、クラス最遅レベル。ハンディウェイトを下ろし、最高では280km/h近い数値を記録するライバルもいる状況で、エンジンパワーを絞られるMercedes-AMG GT3の厳しい性能調整が如実に現れ、セッション全体では18番手と厳しい順位でセッションを終えた。
続く来季から導入予定のFCY(フルコースイエロー)習熟用の15分間の走行枠は片岡選手が担当。そのまま予選Q1ドライバーを担当することになった。午後1時15分からの公式予選に向け、チームは片岡選手に賭ける戦略を採った。
GT300クラス参戦30台(うち1台は予選不出走)をランキング順で組分けしたうち、今回はA組に振り分けられたグッドスマイル 初音ミク AMGは、コースオープン直後からトラックへと向かう。2周、3周、4周と1分40秒台で慎重にタイヤへの熱入れを進めた片岡選手は、計測5周目にアタックへと突入。セクター2、セクター3を自己ベストで走り1分37秒215を記録し9番手とすると、連続アタックへ。上りテクニカルのセクター3で自己ベストを叩き、コントロールライン通過で1分37秒111とさらにタイムを縮めてチェッカーを受ける。しかし結果はA組12番手で残念ながらQ2進出ラインの8位に届かず。この時点でポールポジション獲得による1Pを得られないことが確定した為、2020年シリーズチャンピオン獲得の可能性も消えてしまった。
Q1B組の結果と併せた4号車グッドスマイル 初音ミク AMGの総合順位は24位。今シーズンのワーストグリッドを更新する結果となってしまった。
<Sun.>
■Race
明けた日曜。風は収まったものの、朝は曇り空が広がって真冬のような寒さとなった。午前のピットビューイングでは今季初めてレーシングミクサポーターズ2020の4名全員がサーキットに揃って観客の前に姿を現した。その後、エアレースの世界王者、室屋義秀のフライトパフォーマンスが詰めかけた観客を大いに沸かせる。その余韻も消えやらぬ午前11時30分、今シーズン最後の決勝前ウォームアップ走行が始まった。
気温は7度。ステアリングを握った片岡選手は1分38秒台で周回し、レースに向けたマシンバランスをチェックする。
午後1時、気温8度、路面温度13度と気温の低いコンディションのまま、66周300kmの2020年最終戦決勝レーススタートに向け、2周のフォーメーションラップが開始された。24番グリッドからのスタートとなった片岡選手は、走行中に1周追加されて合計3周となったフォーメーションラップでタイヤウォームアップを十分に完了すると、レーススタート直後から猛烈にオーバーテイクを開始。オープニングラップだけで7台を抜き、17番手にジャンプアップしてコントロールラインを通過すると、続くラップでも30号車(TOYOTA GR SPORT PRIUS PHV apr GT)と7号車(Studie BMW M6)をパスして15番手、3周目にはダンロップコーナーで発生した34号車(Modulo KENWOOD NSX GT3)らのマルチクラッシュの混乱に乗じて、さらに2台をかわして13番手へ浮上。わずか3周で11台をごぼう抜きする片岡選手のオーバーテイクショーに沸くピット。さらなるポジションアップへの期待が高まる。
片岡選手は勢いそのままに、5周目には自己ベストの1分38秒456を刻んで前を行く25号車(HOPPY Porsche)を追うと、7周目にダンロップコーナー進入のブレーキングでポルシェの前へ出た。
しかしここでチームに衝撃が走る。ダンロップコーナーに続く切り返しの左コーナーで、イン側にスペースを残したまま上りの13コーナーへ向け立ち上がろうとしたそのとき、車速を落としきれなかった25号車が左後方から衝突したのだ。その反動でスピンを喫した4号車グッドスマイル 初音ミク AMGは、コース中央で後ろ向きにストップし、エンジンもストールしてしまった。このアクシデントにより、順位はその時点で実質最下位の27番手まで落ちる。
その後片岡選手は、エンジン再始動に手こずりながらも再スタートを切り、気を取り直して再び最下位からのオーバーテイクを開始する。すぐに1分39秒台のペースを取り戻すと、10周目までに25番手、14周目には2号車(シンティアム・アップル・ロータス)の緊急ピットや34号車のオーバーテイクなどで23番手へ。
その後もコース上の直接対決やライバル陣営の早めのピット戦略などで毎ラップのようにポジションを回復し、25周目に8番手でピットインした。
後半スティントを担当する谷口選手は、給油とタイヤ交換を済ませてコースインすると3周にわたって1分38秒台を刻んで前を行く30号車とのギャップを詰めていく。しかしストレートの伸びに苦戦するMercedes-AMG GT3ではJAF-GTのプリウスを攻略する手立てがなく、そのままレース終盤まで我慢の状況が続いていく。この時、全車のピットインが完了したと仮定した実質順位は14番手。
すると40周を過ぎて、背後に序盤の4号車への追突でドライブスルー・ペナルティを受けていた25号車が迫り、10周以上にわたって三つ巴のバトルが続く。しかし51周目にタイヤのドロップダウンからオーバーテイクを許し、4号車は15番手へと後退した。
その後、25号車との距離を再び詰めることはできず、トップに遅れること2周、59周でチェッカーを受けてレースを終了した。
今シーズンは厳しい条件でありながらシーズン序盤戦からシングルフィニッシュの粘り強いレースを重ね、ポイントを積み上げてきた。終盤、セーフティカーの好機を捉えて2度の表彰台も獲得したが、最終的には、ドライバーズランキング8位、チームランキング7位と、開幕前に掲げた目標、シリーズチャンピオン獲得は達成できなかった。
コロナ禍により通常とは全く異なる進行となった2020年シーズン、多くのファンやスポンサーに見守れたGOODSMILE RACING & TeamUKYOの戦いはこうして幕を閉じた。
■チーム関係者コメント
序盤のアクシデントがなければシングルは行けたと思いますが、それでも65号車の後ろ(5位)が現実、というのが今年のレースを象徴してますよね。予選での速さが獲得できないのは、確かにBoPも厳しかった。前に出られない苦しさがあった。
でも不利な状況を並べてしっかり分析したら、手持ちの選択肢でもシチュエーションごとにまだ別の答えが残っているとも思うんです。今季から取り組んでいるHWA(ドイツのAMGレース部門)との連携を通じてヨコハマさんとのコミュニケーションも充分ではなかったのかもしれないと気付きました。これまで経験に基づいて片付けていた部分が多かったけど、データをしっかり活用し、問題解決のためにすべてのメンバーがお互いに学び合う。そんなループを作って機能させる。クルマ、ドライバー、エンジニア、その全てを含めたチームのパッケージングに高度な分析力や決断力が備われば、また違った形で優位さを出せるはずです。本質は長く活躍すること、その為に強いチームを作りたい。そう思っています。
これだけ長いことレースをやって来て『こんなに噛み合わないことあるんだな』っていうぐらいの1年(涙)。今年は道具の面での性能差がありすぎたとも思います。BSかGT-Rのどちらかを持っていると強いという面は確かにあったと思う。でも負けた我々が何を言っても言い訳にしか聞こえない。ここから抜け出すには自分達が変わらないといけない。そうでないと状況は変わらない。僕の経験では、状況を変えるのは難しいようで、変わってから振り返ってみれば、実は簡単な事だったというものなんですよね。ずっと部屋に閉じこもって重箱の隅を突いても何も変わらない、でも外に出て運動すると気分が変わるし見えるものが出てくる。何かが変われば、ガラッと変わるんですよ。それがレースの難しいところであり、複雑だけど簡単なところ。今年の結果は悔しいですけど文句ばかり言ってないで反省して、勝った相手をリスペクトして、この敗北から学ばなきゃいけないと感じています。
最終戦で各車ノーウエイトになったことで、シーズン中はちょっとボヤけていた力関係が改めて如実に出たレースだったなと思います。後半スティントは前半と同じコンパウンドを選んだんですが、ラップタイムを維持できず、最後は周囲のペースについていけなかった。メルセデスがキツいのも確か、タイヤが厳しいのも確か。その両方を使っている我々が厳しいのは誰が見ても明らかな状態でした。シーズン全体を通してQ1が「通る、通らない」のレベルで、非常にツラい1年でした。せめてもう少し調整が一律になることを願いたいですね。
ノーウエイトで戦ってみれば当初のパフォーマンスの差がきっちり出ました。現状のマテリアルとルールではまったく勝負権がないなという状態で予選に挑みました。今のメルセデスの唯一の強みは、決勝が得意という部分なので、せめて少しでも面白いレースをしてやろうと思ってスタートしました。後ろの方から出たことで、その分かなりの台数を抜けたから、そこまでは良かったんですが、追い上げてる途中で当てられてしまった。最後はタイヤもキツくなって冴えない結果に終わった。この週末は今季を象徴する内容だったと思います。結果的にみんながウエイトを積んでいる時に、セーフティカーがあって2回表彰台に立てたことはラッキーでしたし、それがあってくれたのがせめてもの救いですが、それにしても”不満”の残る2020年でしたね。