GOODSMILE RACING & TeamUKYO RACE REPORT 8
2022 AUTOBACS SUPER GT Round8 MOTEGI GT 300km RACE GRAND FINAL
会期:2022年11月5日~6日
場所:モビリティリゾートもてぎ(栃木県)
天候:晴
観客:予選13,500人 : 決勝26,000人
予選:3位
決勝:7位
獲得ポイント:4P
シリーズ順位:9位(33P)
11月5~6日、3年ぶりにモビリティリゾートもてぎで最終戦『MOTEGI GT 300km RACE GRAND FINAL』が開催された。
シーズン全8戦に出走した車両は競技規則により、戦績により搭載されるサクセスウエイト(=SW)が免除されるため、今大会はシリーズ途中で1戦以上を棄権した2チームを除いた全車がノーウエイトでの勝負となる。
さらに4号車グッドスマイル 初音ミク AMGのBoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整)重量は35kgと2021年の同じ週末に開催された第7戦もてぎ大会と比較して10kg軽減された。それでも総重量はホンダNSX GT3と並ぶ1320kgのクラス最重量となった。
11月5日(土)【公式練習、公式予選】
公式予選 天候:晴れ
コース:ドライ
気温/路面温度 GT300 Q1開始時 17℃/27℃
Q2開始時 17℃/25℃
土曜、予選日。競技規則により1レースで持ち込めるドライタイヤの本数は6セットに定められており、普段なら2種類のタイヤを3セットずつ持ち込むのだが、今レースでは今後に向けて試したいスペックのタイヤがあった為、チームは3種類のタイヤを2セットずつ持ち込んでいた。
午前9時35分、気温は14℃と肌寒く、路面温度も19℃。まずは「もて(ぎを得意とする片)おか」を自称する片岡選手からステアリングを握る。セッション開始から10分ほどピットで待機してからコースイン。セッティングの確認と共に1セット目のタイヤ評価をおこなう。計測6周目に1分47秒314を記録して11番手。続く2セット目のタイヤ評価では11周目に1分46秒712で7番手と、トップ10圏内の走り出しを見せる。さらに3セット目の評価をする中、路面にラバー乗ってきたことも影響して16周目に1分46秒388のセッションベストを記録。3種類のタイヤの評価を終えると、片岡選手はショートランを繰り返し、車両バランスの最適化を進めていく。混走時間帯終盤には2号車(muta Racing GR86 GT)がトラブルによりスロー走行した為、FCY(フルコースイエロー)が導入されたものの、片岡選手はトータル30周を走行し、谷口選手へとステアリングを引き継いだ。
谷口選手は午前11時からのクラス専有走行の10分間で1分47〜48秒台を記録して、片岡選手が調整したマシンの感触を確認する。公式練習のベストタイムは16周目に片岡選手が出した1分46秒388で、全体7番手となった。
午前11時30分からのFCYテスト走行枠では谷口選手がドライブを担当し、さらに車両とタイヤの評価を進める。
この結果を受け、午後の予選はQ1に谷口選手、Q2に片岡選手というオーダーに決定した。
午後2時20分、気温17度、路面温度は27度のコンディションでGT300クラスQ1A組がスタートした。今大会もGT300の予選Q1はランキング順に2組に振り分けられ、GOODSMILE RACING & TeamUKYOはA組に振り分けられていた。谷口選手はセッション開始直後に14台中3番目でコースイン。直後に前方の1台をかわして2番目でアタックラップに突入するも「3コーナーで思いっ切り横を向いて『あ、こりゃダメだ』と」すぐに判断し、ここでアタックを中断。チェッカーラップとなる計測5周目でのアタックにすべてを賭ける。
この周回でも「イマイチ決めきれず。『ヤベェ、落ちたかも』と」感じていた谷口選手だったが、タイムは1分46秒504を記録し、通過時点で7番手とカットラインをクリアする。直後には87号車(Bamboo Airways ランボルギーニ GT3)に上回られたものの、無事に8番手でQ2進出を決めてみせた。
GT500クラスQ1を挟んで午後3時13分、西日が傾きはじめた中、Q2スタート。セッション開始と共に片岡選手はコースへ向かうと、5台目でウォームアップを進める。その最中、先にアタックを始めていた61号車(SUBARU BRZ R&D SPORT)が最終コーナー出口の縁石で姿勢を乱し、そのままサインガード側のウォールにクラッシュ、赤旗中断となってしまう。
車両の回収が済み、午後3時31分からセッション残り5分での再開がアナウンスされる。
再開と共に各車一斉にコースインして、一気にタイヤのウォームアップを済ませてアタックに入る。
まずは18号車(UPGARAGE NSX GT3)がコースレコードを上回る1分45秒121を出しトップに立つ。直後にチェッカーが振られるが、まだ4号車を含む数台のマシンがアタックを行っている。まずは先程トップタイムを出した18号車と同じNSX GT3を使う55号車(ARTA NSX GT3)が1分44秒798とコースレコードをさらに更新するタイムを出しトップが変わる。
続いて「完全に熱が入り切る前だったから、まだタイヤは残ってた」という4号車の片岡選手も2台のNSX GT3には及ばないものの従来のコースレコードを上回る1分45秒170という驚異的タイムを叩き出して3番手に入る。
「正直、予選であそこまで行けると思わなかった。結果、コンディションがたまたま合った……のかな?路面が出来て、軽いタンクで、ラバーが乗って、この1周は速く走れたっていう感じ」と謙遜する片岡選手は、2列目3番手グリッドを獲得した。谷口選手も「あれは片岡がスーパーアタックを決めて、もぎ取ったポジション」と讃えた。
11月6日(日)【決勝】
天候:晴れ
コース:ドライ
気温/路面温度 開始開始(13:00):18度/31度
中盤(14:00):19度/30度
終盤(15:00):18度/28度
終了(15:15):18度/27度
前日予選後のスタートタイヤ抽選により、決勝は谷口選手が装着したソフト側のQ1タイヤでスタートする事が決まった。
今大会は特別規則により決勝レース中のドライバー交代時にタイヤ4本交換が義務付けられている。これにより、タイヤ無交換だけでなく2本交換作戦も採れない。結果、これらの作戦を得意とするGT300規定車両などライバルの動きを警戒することなく、セーフティカーやFCY発動による混乱を回避する意味でも、決勝に向けてはレース距離の3分の1でのピット作業を想定する『ミニマム』の戦略を基本に据えた。
午前11時40分からのウォームアップ走行では、早くも前日予選開始時点と同じ27℃まで路面温度が上昇するコンディションとなる。決勝を見据えた燃料搭載状態のレースペースを確認した片岡選手は1分48〜49秒台を並べて、セッション6番手で決勝レースへの準備を整えた。
しかし、当の片岡選手は「練習走行などのフィーリングだけで言うと、決勝はそんなにガンガン行くっていうよりは、守る感じになるだろうなぁ……と思っていた」と、予選ポジションとは異なる想定をしていた。
午後1時、気温16℃、路面温度27℃の条件の下、栃木県警が所有する複数のスポーツカータイプのパトカー先導によるパレードラップと、1周のフォーメーションラップを経て決勝レースがスタートした。盤石のスタートを決めた片岡選手は、同じく2列目4番手に並んでいた65号車(LEON PYRAMID AMG)や5番手スタートの88号車(Weibo Primez ランボルギーニ GT3)を従えて1コーナーに飛び込む。3コーナーで2番手スタートの18号車(UPGARAGE NSX GT3)がポールスタートの55号車(ARTA NSX GT3)の前に出てトップは変わるが、2台のNSXは圧倒的な速さで逃げていく。
「予選では良い意味で期待が裏切られ『イケちゃうじゃん』を期待したんですけど、レースがスタートして5周ぐらいしたらちょっと……。練習走行と同じフィーリングというか、前を追うというよりは『どこまで下がらずにイケるのかなぁ』という感じ」が漂い始める。
するとレース開始早々の8周目に波乱が巻き起こる。GT500車両と絡んだ30号車(apr GR86 GT)を起点に、3コーナーで多重クラッシュが発生。ここで複数台のGT500車両に加え25号車(HOPPY Schatz GR Supra)ら3台が巻き添えとなり、すぐにFCYが宣言される。現場では液体漏れの処理が必要となり、直後にセーフティカーランに切り替わる。13周目にホームストレート上で手順どおりにクラス別の隊列整理が行われる。
続く14周目、まだSC先導走行中のホームストレートで、今度は31号車(apr GR SPORT PRIUS GT)が大きな速度差で5号車(マッハ車検 エアバスター MC86 マッハ号)に追突するアクシデントが発生。ホームストレート上にパーツが飛び散り、事故処理と車両回収のため、SC先導走行は急遽ピットレーンを通過する事になり、これがレースに大きな影響を与える。
通常SC中はピットレーンは閉鎖されるが、今回はピットレーン通過中にピット作業を行う事が許されていた。その為隊列中団のマシンを中心に給油のみを行いレース再開後のピット作業時間短縮を狙った陣営や、タイヤ交換まで行って再開後のペースアップを狙う陣営が現れたのだ。
そして21周目にレースが再開されると、GOODSMILE RACING & TeamUKYOは続く周回で片岡選手をピットに呼び戻す。ここで義務どおりのタイヤ4本交換と給油作業を終え、谷口選手が18番手でコースへと戻ると、ピットアウトでは65号車や96号車(K-tunes RC F GT3)などのライバル勢の前には出られたものの、1周先にピット作業を終え、タイヤのウォームアップの済んでいたライバル勢のペースには勝てず、ポジションを落としてしまう。
4号車もタイヤグリップ発動後は1分48〜50秒台と、想定したラップペースで周回を重ね、ルーティン作業に向かうライバルを横目にジリジリとポジションを回復していく。しかし谷口選手自身は「(検証中のタイヤだったので)このタイヤを使ったらこのへんのアベレージで行けて、これくらい(の周回数)保ってとか、そういうデータがまったくない状態だったので『やってみないとわからない』と。本来なら、片岡が最初に履いたタイヤが悪ければ変えるし、良ければ同じので……ってなるのが普通だけど(SC導入で状況が見えず)それもできない。選択肢のない状態だった」と、ほぼ手探りでの走行に。
終盤はタイヤのピックアップにも苦しみながらも、41周目には4号車より1周前にピット作業を終えていた65号車を、続く42周目には4番手走行中にフロントタイヤが脱落した56号車(リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-R)や、前方の9号車(PACIFIC hololive NAC Ferrari)をオーバーテイクし、一気に入賞圏内の8番手まで進出していく。
GT300クラス想定の58〜60周チェッカーに向け、さらにタイヤマネジメントに心血を注いだ谷口選手は、周囲がどんどんラップタイムを落としていくなか、前でバトルする10号車(TANAX GAINER GT-R)と96号車とのギャップをじりじりと詰めていく。ファイナルラップの60周目、90度コーナーのブレーキングで一気に距離を縮め、最終コーナーの立ち上がりで10号車に並び、わずか0.004秒前に出てフィニッシュラインを通過した。最後の最後まで諦めることなく前を追い続け、今季最後のレースを7位でフィニッシュする力走を見せた。
過去数シーズン、厳しい状況に置かれてきたGOODSMILE RACING & TeamUKYOだが、今季後半戦からいよいよ上り調子に転じ、第5戦の鈴鹿サーキットでは”鬼門”を打破し5年ぶりとなる勝利も飾った。首位快走中のパンクや谷口選手レースウィーク中の急病による欠場などで落としたレースが多かった事で、ドライバーズランキングは9位、チームランキングでは6位に終わったシーズンだったが、来季に向け確実な足掛かりを得た1年でもあった。
■チーム関係者コメント
決勝前半のタイヤが上手く規定周回数、想定の20数周を保ったら、後半のタイヤはまだちょっと見えないけど「行けるかな」と思ってたんですけどね。後半はピックアップにも苦しんだようで、思い切って剥がしにいく、ってのは(パンクの)トラウマと戦う谷口にも出来なかったよう(笑)。作戦面では、もてぎ300kmでのミニマムは「ちょっとダメかも」って改めて思いましたし、65号車よりピットインが(1周)遅れたのも「なんで先じゃないんだ」と。それでも今季はHWAとの連携も2年目に入り、現実的なデータや実績に基づく積み上がった議論ができた。アクションして、仮説が立って、それで次に向かえるっていうような。普通の仕事っぽいですよね(笑)。その積み重ねをもとに、もうちょっと自分たちを信じて頑張るしかないかなぁ、と思いますね。
率直に言って悔しいです。消化不良というか、毎回「あーすればよかった」「こーすればよかった」が出る。温まりが厳しいタイヤでミニマムだとこうなってしまうから、もっと早く入るべきだった……とかね。でも大きな視点で見れば、今年はまた「戦えるんだ」ってことがわかったから、だからこそ悔しさも湧く。その意味でも来年こそ大事だなと。本来なら2勝はしていたし、表彰台にももう少し上がれていたし、完全にチャンピオン争いをしていて、最終戦がこのドタバタなら「あれ? ウチに転がり込んでもおかしくなかったよな」っていう感じもあった。ここへ辿り着くまでに自分たちを信じる力が少し落ちたってこと、それ自体が「イカン、イカン」と。来年のスタート前にはもう1回、自分たちを信じて「チャンピオン争いができるんだ」っていうふうに『愚痴禁止』で臨みたいと思います。
予選は片岡のおかげで3番手にはなりましたが、まだ今日勝つにはいろいろと足りなかったかな、という気はします。とりあえずQ1は無事に”ギリ”通れたり、予選3番手なれたり。そこらへんは流れが良かったなと思いますが、今回持ち込んだタイヤがどのパターンでもあまりうまく機能しない感じもあり。それでも、なんとなくアベレージ的には悪くなさそうで、今は本当に来年に向けてのデータ採りをやっている部分もあるので、ある程度はしょうがないかなと。今まではもう、他が良過ぎて「このパッケージじゃ無理だ」っていうのがありましたが、後半戦以降は「やることをやれば、まだ足掻ける」と。「戦える要素、場面もあるな」と、可能性がゼロじゃなくなって来た。来年はもうちょっと戦えるんじゃないかな、という気はしますが、どうかなっていう気もします(笑)。
週末は可能性を残しつつ、でも予選がちょっと良かったことを除けば、それほど手応えはなかったのが正直なところ。レース結果も、なんとなく想定できるところもありました。決勝はセーフティカーが絡んだり、タイヤ交換や給油だけするクルマもあって、自分たちのルーティンが終わったあとの順位も「なんでそこにいるのかもわからない」状態に。終わって振り返っても「どの作戦だったら良かったのか」もイマイチ。予選順位とかも関係ない、すごくモヤモヤした展開でした。今日に関しては(予選順位で)前にいるとそうした作戦は採れないですし、多分、最後尾から出てもあの順位な気もします(笑)。今季後半は方向性も見えましたし、来季アップデートをするためのデータを今は採っているので、これがちゃんと役立ってくれれば良いかな、と思ってます。