GOODSMILE RACING & TeamUKYO RACE REPORT 4
2023 AUTOBACS SUPER GT Round4 FUJI GT 450km RACE
会期:2023年08月05日~06日
場所:富士スピードウェイ(静岡県)
観客:予選20,200人 : 決勝30,200人
予選:1位
決勝:12位
獲得ポイント:1Pt
シリーズ順位:19位(3Pt)
梅雨が明け日本各地で連日猛暑が続く8月の第1週末、SUPER GT 2023 第4戦が富士スピードウェイで開催された。コロナ禍以降のここ数年、6月・7月に開催されるレースが無いため、5月最終週開催の第3戦鈴鹿からこの第4戦まで2カ月間のブランクを置いてのレースとなる。今回のレースフォーマットも第2戦・第3戦と同じく450kmレースだ。
富士でのMercedes-AMG GT3のBoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整)は、他サーキットのBoPで義務付けられている34.5mmより大きな36mmのエアリストリクターが装着される。この1.5mmの差はAMGのストレートスピードに大きな影響を与える為、過去も富士でのレースは他サーキットでのレースに比べてライバルに見劣りしないパフォーマンスを発揮しやすい。またBoP重量は第2戦富士の時と同様に50kgを積み、車両総重量は1335kgとFIA GT3規定モデル最重量となるが、戦績に応じて搭載するサクセスウエイト(=SW)は未だ6kgとライバル達に比べて軽いため、富士スピードウェイの名物でもある1.5kmものホームストレートで武器になる事が期待できる。
第2戦富士450kmレースでの4号車グッドスマイル初音ミクAMGは、予選でシングルグリッドを獲得、決勝でも上位を走行して大量得点が期待されていた中、レース中盤に縁石にエンジンをヒットしてオイルパンを破損し、無念のリタイヤという悔しい結果に終わっていた。その雪辱を果たすためにも、今大会こそは上位ゴール大量得点が欲しい1戦だ。
8月5日(土)【公式練習、公式予選】
・天候:晴れ
・コース:ドライ
・気温/路面温度:
GT300 Q1開始時 33℃/45℃
Q1終了時 34℃/44℃
Q2開始時32℃/43℃
Q2終了時32℃/42℃
午前9時、気温31度、路面温度38度。時折吹く風で凌ぎやすさはあるものの、朝から強い日差しが照りつけており酷暑の1日を予感させるコンディションの中、公式練習が始まった。
4号車はセッション開始から5分ほどピットで待機したのち、片岡選手のドライブでコースイン。「(これまでのレースから)使えるタイヤをチョイスし、コレしかないから、コレだけに賭けてセットしようと」(安藝貴範代表)持ち込みタイヤセットを1種類に絞り、車両セットアップも昔の良かったときに戻した状態からこの週末のセッティングを開始した。
計測6周目に1分38秒852を出し7番手に立ち、一度ピットに入り微調整をしてコースに戻ると、9周目に1分38秒488と自己ベストを更新して5番手に上がる。片岡選手は「ほぼ変える必要なし」と判断し、普段なら持ち込みセットとタイヤの確認に追われるセッション序盤で早くもシートを降り、わずか10周で谷口選手にステアリングを引き継いだ。
谷口選手は計測2周目に1分37秒879を記録してクラス2番手へ浮上。その後燃料を満タンにしてロングランテストに入ると1分38~39秒台の好ペースを安定して15周ほど維持した。10時15分に61号車(SUBARU BRZ R&D SPORT)のトラブルによる赤旗で中断した後、10時25分からの10分間のGT300クラス占有走行枠でも谷口選手がステアリングを握った。ここで4号車は予選シミュレーションをおこない1分37秒452を記録し全体トップに立つと、続くラップでも2周連続のタイム更新で1分37秒067まで詰め、2番手の10号車(PONOS GAINER GT-R)に対し0.520秒の大差をつけて、トップタイムでセッションを締め括った。
午前10時55分からのFCY(フルコースイエロー)テスト枠と、ミクサポや個スポも乗り込んだバスも並走するサーキットサファリは、片岡選手が好走を続けて1分37秒台を記録。この日は、4号車グッドスマイル初音ミクAMGがクラス最速車両であることは誰の目にも明らかだった。
午後3時20分からおこなわれた公式予選Q1はランキング順に2組に振り分けられ、GOODSMILE RACING & TeamUKYOは午後3時38分からの予選Q1B組で出走する。Q1担当ドライバーは片岡選手。コースオープンと共にコースに向かうとウォームアップを2周で済ませて計測3周目に早々とアタックを開始する。そのアタックで片岡選手はQ1B組のターゲットタイムとなる1分37秒657を記録し、さらに連続アタックへ向かう。セクター1、セクター2で全体ベストを出しながら、セクター3に突入。前を走る360号車との距離が近づいてしまうが、最終コーナーから360号車(RUNUP RIVAUX GT-R)のスリップストリームに入ってコントロールラインへ向かう。「あれはね(笑)、単独の方が速かったと思いますけど。多分、セクター3で引っ掛かった分を返してもらったくらい」と振り返りつつ1分36秒896まで自己ベストを縮め、後続の61号車に0.289秒差を付けるB組トップタイムで予選Q1を通過した。
続く予選Q2は、谷口選手がポールポジション獲得に挑む。タイヤのウォームアップを済ませ4周目からアタック開始。1分36秒617を叩き出し、いきなりトップに立つと、さらに翌周もアタックを続け1分36秒375とトップタイムを更新した。セクター1、セクター2は肉薄するタイムを記録するマシンもいたが、谷口選手の得意とするセクター3のタイムには誰も近づけず、狙い通りにポールポジション獲得となった。谷口選手は2017年第2戦富士以来キャリア通算7回目、チームとしても2017年最終戦以来の6シーズン振りとなるポールポジジョンを掴んだ。
8月6日(日)【決勝】
天候:雨
コース:ウエット
気温/路面温度 :
スタート(13:45)26℃/31℃
中盤(14:45)28℃/35℃
終盤(16:15)27℃/30℃
ゴール時(17:30)25℃/26℃。
決勝日の朝、午前8時50分。予選でポールポジションを獲得したことで、SUPER GT決勝日朝の恒例でもあるGTオフィシャルステージ『TOP3ドライバートークショー』へ谷口選手が出演すると、軽妙なトークでステージを盛り上げ、集まったSUPER GTファン達を楽しませた。続いて午前9時15分からは片山右京監督と片岡選手も合流し、ヨコハマブースでも押し寄せた大勢の観客を前にトークショーに出演、こちらでも会場を大いにわかせた。
昨シーズンより導入された450kmレースでは、2回の給油が義務付けられ、ピット戦略が以前にも増して重要となっている。タイヤのチョイス、ライフ管理と交換タイミング、給油の量など考慮すべき項目は多岐に渉る。加えて、この日は気温は20度台後半までしか上がらず、急な雨が観測されるなど、天候と雨量という波乱要素もプラスされることで各チームともスタート直前まで悩みに悩んだに違いない。
午後12時15分からの20分間のウォームアップ走行では、降雨は無いものの路面はウエット。片岡選手はウェットタイヤを装着しファーストスティント向けの感触を確かめる。路面は次第にドライアップしていったため終盤にはドライタイヤの確認もおこない、16番手でセッションを終えた。
午後12時53分にピットロード出口がオープンになると各車グリッドに向かっていくが、ポールポジションの4号車は演出の為に最後までピットで待機する。GT300、GT500のポールポジション以外のマシンがグリッドに着いた後に4号車もコースインし、グリッドで待機するライバル車両の間を抜けポールポジションのグリッドに着く。この時点では降雨はなく路面もドライだった為、全車スリックタイヤを装着していた。
スタート進行が進む中、雨粒が落ちだしほとんど乾きかけていた路面は、ウェットコンディションに戻ってしまった。その後すぐに雨は止んだものの、路面は簡単には乾きそうになく天候も不安定な様子だった為、グリッド上で作業可能なフォーメーションラップ5分前のギリギリまでコンディションを見極めて、チームは最終的にウェットタイヤを選択してスタートの時を迎えた。
不安定なコンディションを受け、静岡県警の白バイ隊と4台のパトカーが先導する予定だったパレードラップはキャンセルされ、午後1時45分にセーフティカー(SC)先導で決勝レースがスタートした。
全車がコースコンディションを確認したのち、3周目突入時点でSC先導が終わりレースはリスタートを迎える。先頭を行く4号車の背後の2台、61号車と11号車(GAINER TANAX GT-R)は温まりの速いダンロップウェットタイヤを装着しており、明らかに1段速いペースで追い上げていた。片岡選手は堪らず先行を許して一旦3番手に順位を落とす。それでも「結局、あの状況では人のペースは人のペースなので、自分のペースを守るしかない」と冷静に状況を判断していた片岡選手は、5周目突入のTGRコーナーで61号車を抜き返し2番手とすると、続くラップのホームストレートで11号車の背後に急接近。ブレーキングスタビリティに定評あるMercedes-AMG GT3のキャラクターも存分に活用し、TGRコーナーのインを刺して首位奪還に成功した。
ここから後続とのギャップを築きたい4号車だったが、路面はみるみるドライアップし、先にスリックタイヤに履き替えた車両のタイムも上がり始めたことから9周目を終えてピットへ。スリックタイヤへ交換と給油(1回目の義務消化)を済ませ、13番手でコース復帰した。
結局、このタイミングでライバル全車がスリックへの換装を実施したことから、2周後には首位へ返り咲いた。4号車はここから1分40秒台の安定したラップを刻みさらに19周目以降は1分39秒台にペースを上げて周回を重ねていく。2番手に上がってきた88号車(JLOC ランボルギーニ GT3、今回からLAMBORGHINI HURACAN GT3の”EVO 2″を投入)とのギャップを3-5秒ぐらいに維持しながら32周目までキレイにタイムを並べる高精度なドライビングを見せた。
33周目、244号車(HACHI-ICHI GR Supra GT)が車両トラブルにより2コーナーから下った所に停車すると、そのまま炎上した為、消火と事後対応の為にSCが導入される。これにより約3秒あったギャップはリセットされてしまった。
39周目にリスタートすると、片岡選手は背後につけた88号車を再び圧倒するペースで快走し、40周目から1分39秒049、続いて1分38秒876、1分38秒835と3周連続で自己ベストを更新する。50周目、88号車がルーティンピットに向かった時点で、その差を6.446秒まで広げていた。しかし88号車の後ろで、給油時間が短くピット作業で差を詰められる可能性の高い11号車、10号車の2台のGT-Rが虎視眈々と逆転のチャンスを伺っていたため、片岡選手は警戒を解かずにプッシュし続けた。
54周目、4号車も2度目のピットへ向かい谷口選手に交代。2回目の義務給油も消化してモニター上の作業静止時間58.4秒でピットロードをあとにする。谷口選手はアウトラップのTGRコーナーでオーバーシュートするも、先にピットを済ませてタイヤに熱の入っていたGT-Rの10号車をしっかり押さえて前に出すことなく、その差を1.7秒、2.3秒とジリジリ突き放していく。
57周目にはコースに残っていたライバルたち全てがピットに入り、4号車はトップに返り咲く。谷口選手はこの後1分38秒後半から39秒前半を連発して2番手以下とギャップを作り始めていた。
しかし62周目、第3セクターで今度は25号車(HOPPY Schatz GR Supra GT)が炎上し、ここでふたたびのSCが導入される。25号車は燃料にも引火したようで火の勢いが強い為、赤旗に切り替わり、午後3時40分を回ったところでレースは中断された。
当初は約30分後に再開予定だったものの、レース中断中に雷雨が発生したことで再開は2度ディレイされ、最終的にSC先導で午後4時30分再開となった。待機中のグリッドでウエットタイヤへの交換が許可され、GOODSMILE RACING & TeamUKYOはこの後は雨は降らないと予想し、2種類持ち込んでいるウェットタイヤのうちハード側を選択した。
レース最大延長時間の午後5時30分までにあと何ラップ出来るのか。その間、天気と路面コンディションはどう変化するのか。多くの不確定要素を抱えたままSCが戻り68周目にレースがリスタートする。
SC中に各車のタイヤが冷えてしまっていた事を受けて、温まりの速いダンロップタイヤ装着の11号車、10号車にここでもウォームアップの速さを活かされて、谷口選手はコカ・コーラ(Aコーナー)で先行を許してしまう。
しかし、谷口選手はファーストスティントでの片岡選手のオーバーテイクの再現とばかりに73周目突入のTGRコーナーで10号車を。77周目に今度はアウト側から11号車を鮮やかに仕留め、トップへ返り咲いた。
路面は周回を重ねるうちにドライアップしていき、ウェットタイヤを装着したマシンはラインを外し濡れた路面を探すようになっていく。残り15周ぐらいになると再開後早々にスリックに戻して下位に沈んでいたマシンと上位のウェットタイヤ勢とのタイム差が縮まっていく。各車、このままウェットタイヤでステイアウトして最後まで行けるか、それともスリックタイヤに履き替えポジションを一旦落としてでもそのあとのペースアップによってポジションを回復できるのかで頭を悩ませている様子だった。そんな中、11号車が上位勢では一番先に動いた。81周目にピットへ向かいドライタイヤに履き替える。
一方の谷口選手も「自分のペースは自分が1番分かる。タイヤ(のドロップダウン)が来ちゃってて、もうズタボロ。アスファルトの上じゃなくて砂の上を走ってるような……。それぐらいの感じだったから、一見まだペースが落ちてなさそうに見えるだろうけれど、こりゃ『キテる』から。残り10周ちょっとで手遅れにならないうちに早く入った方がいい」と、自身の判断で84周目にピットロードへ飛び込みスリックタイヤに換装する。これが運命の分かれ道となった。
冷えたスリックタイヤを装着してグリップが「何もない」状態となってコースに復帰した4号車は「用心して1コーナーへ入ったけどそのまま突っ切るし、その後の加速も全然だし。Aコーナーのブレーキも止まらな~い、ってなっててハンドル切ったらスピン。優しく曲がっていくんだけど、でももう……」という状況でコースオフ。
どこにも当てずにマシンを止められたものの、不運にもノーズがバリアを向いた状態で止停止してしまった。リバースギヤを入れるのに時間を要し、コースに復帰すると無念の14番手へと後退していた。必死の挽回を期して追走するも、93周目に12位まで回復したところでチェッカーを迎えてしまった。
■チーム関係者コメント
最後のあの判断は難しかったですけどね。僕は残り10周だったからステイアウトするって思っていたんですが、そこを谷口からのタイヤインフォメーションで「もうダメだ」っていう話だったので入れちゃったんです。実際、入ってきたタイヤはボロッボロだったので、これはまあ「無理だな」と。モノを見れば、わかる。でも我々はトップに居たんだから。別に判断は後でいい。リアクションをすべきところ「なんで先に入るの?」という思いも……。ただステイしても、入っても、どちらでも勝機はあった。なのでステイも入ったことも『間違い』だとは思わないけれど、余計な要因は作ったなぁ、と。富士は獲らなきゃいけないところなので、その準備が実ったのは良かったですが……(昨季は富士でパンクから勝利の次戦)鈴鹿は、本来得意じゃないんですよね~(涙)。
これがF1だったら全員クビだったろうね。今振り返ってみるとボロボロのタイヤでも逃げ切ってたかな~とも思うし、スリックで行っても勝てたかな~とも思うし。リスタートで硬めのウエットを選んで、そこで頑張ってくれたのはカッコよかったし、いい走りだったんですけど、あれだけ経験を積んでてあれだけ速いドライバーで、あんだけ上手いヤツが、まるで”小僧”みたいなミスをしてしまったという。それだけ「勝ちたい」んだよね。だけどまあレースだからね、ミスもしちゃうし。甘いって言われるかもしれないけれど、あれはドライバーだけのせいじゃないなって。ドライバーは「オレのせいだ、恥ずかしい」って言うかもしれないけれど、全体的にはやっぱりチームのせいもある。そこは過信じゃなくて、珍しく焦ったよね。
焦りましたね……。スリックなんだからもっと”転ばない”ように行かなきゃいけないのに、とにかく『後ろに抜かれないようにしなきゃ』ってところで焦って。これは完全に自分の失態です……。赤旗リスタート後は最初のスティントの片岡も見てのとおり、我慢してれば落ちてくるだろう、って。あとはゴールまでそのタイヤが持てばいんだけど、ドライアップしていって。「みんな苦しんでんじゃないの?」ってとこが冷静になればわかるけど、だからこそ焦らなきゃ良かった。スリック履いたヤツは”ピヨピヨ”走ってるハズだから、こちらも”ピヨピヨ合戦”をやっていれば良かった。気持ちのいい土曜を過ごして、今日は個人的に1番最悪な結果。レース人生の中でも、割と数えるぐらいしかない失態、大失態で。普段、こういうことをしないように心掛けてる者だけに、ものすごく凹みますね。
ポールを獲った時点で決勝の天気予報を見て「難しいレースにはなるだろう」と。そう思ってた中では、スタートから雨でドライに換えるタイミングやドライでのペース~ピット作業~赤旗~ウエット~トップに返り咲く……ぐらいまでは比較的順調にコントロールできていたと思います。個人的に最後は「ステイアウトかな」と思って見ているなかで「え、もう入っちゃった?」とは思いました。ただ入る時点では(背後の)88号車や7号車がまだ入らないと思っていたので(最終的に2台ともドライに)このあたりだけが唯一、コントロール下にない感じのレースでした。(今シーズンは)まあオイルパンが割れたり(笑)、雨に脚を掬われたり、いろいろありますよね。(今回は)火災が2回あったことで時間もズレましたし。いろいろなモノが作用して、終わってみれば自分たちのレースではなかった、ということですね。