TKRI with GOODSMILE RACING RACE REPORT 1
2024 富士チャンピオンレース FCR-VITA / KYOJO CUP Rd.1
会期:2024年05月11日~12日
場所:富士スピードウェイ(静岡県)
観客:FCR-VITA(11日) 1,761人 / KYOJO CUP(12日) 2,724人
FCR-VITA(11日):予選41番手 / 決勝38位
KYOJO CUP(12日):予選26番手 / 決勝26位
2023年10月のプロジェクト始動から半年、「初音ミク レーシング プロジェクト KYOJO CUP 2024」が初のレースウィークを迎えた。
このプロジェクトは、GOODSMILE RACING & TeamUKYOのドライバーとして活躍する片岡龍也選手が、自身を業界屈指のレーシングドライバーに育ててくれたモータースポーツ界への恩返しとして、次世代を担う若者にチャンスを提供したいという思いから、KYOJO CUPを舞台に、新人ドライバーを育成していく事を目的として2023年秋にGOODSMILE RACINGの安藝代表と共に立ち上げた活動だ。
プロジェクトの発足と共にオーディションによりドライバーが選定される事が発表されると、モータースポーツ界で大きな注目を集め、未来のトップドライバーを志す多くの女性がエントリーした。そして2024年に入って開催されたオーディションには大勢のドライバーが参加した。それを見事に勝ち残ったのが岡本悠希選手だ。
岡本選手はオーディション合格時点ではカートの走行経験こそあるものの、レーシングカーに乗ったこともサーキット走行をしたこともない未経験者だった。合格後の2024年3月に初めて、KYOJO CUPで使われるレーシングカー、ウエストカーズ製VITA-01で富士スピードウェイを走行すると、翌4月にもKYOJO CUP合同テストへ参加して走行経験を重ねてきた。
そしてゴールデンウィーク明けの富士スピードウェイで、プロジェクトにとって最初の、岡本選手には人生で初めてとなるレースウィークを迎えた。
5月9日(木)
レースウィークの木曜日、富士スピードウェイは朝から雨が降っていたが、岡本選手は練習の為に早くもサーキット入りしていた。この日は1回30分のスポーツ走行枠を5回、合計2時間半練習する予定を立てていた。
岡本選手にとって初のウェットコンディションの走行となったが、順調に走行を重ねていった。雨量は多くなく、午後に入って雨は止んだ。午後のセッションでは路面はドライコンディションへと変わっており、岡本選手は4月のテスト時に2分7秒台だったベストタイムを2分5秒台まで縮めてこの日の練習を終えた。
5月10日(金)
金曜日の岡本選手は、午前と午後にスポーツ走行枠を1回ずつ使って練習走行を行い、自己ベストタイムを2分4秒台まで上げて走行を終えた。
この日は今シーズンKYOJO CUPにエントリーする全てのドライバーが揃い、岡本選手もドライバー集合写真撮影に参加するなど、大会のプロモーションに関わる準備も行われた。
5月11日(土)
この日の午前は富士チャンピオンレースのFCR-VITAというレースが行われ、岡本選手はKYOJO CUPの前に、まずはこのレースでレースデビューをする事になった。
FCR-VITAはKYOJO CUPと同じVITA-01を使用したワンメイクレースで、女性限定のKYOJO CUPと違い性別問わず参加可能だ。今シーズンは全戦がKYOJO CUPと同じレースウィークに開催される為、岡本選手だけでなく多くのKYOJOドライバーが参加を表明しており、KYOJO CUPよりも遥かに多い42台のマシンがエントリーしている。
午前8時、決勝レースのグリッドを決める20分間の予選が始まった。岡本選手は練習するたびに着々とタイムを上げているとは言え、まだ上位勢とのラップタイム差が大きい。その為この予選では、集団から離れたところでコースインする為に最後方でコースへと向かった。
台数が多いこのレースの予選では、自分のペースでアタックするためのスペース確保が重要になる。42台ものマシンがコース上にいる為1周を通して自分のペースでアタックをすることは容易ではなく、ウォーミングアップを進めながらも前後にいるライバル達との間隔を調整してアタックラップに備えることが必要だ。しかし岡本選手は他選手に比べてペースが遅いこともありスペース作りがうまくいかず、なかなか記録を伸ばせない。結局前日の練習走行で出した自己ベストに届かない2分05秒770が予選ベストタイムとなり、42台中42番手で予選を終えた。岡本選手にとってのデビューレースは最後尾グリッドからのスタートとなった。
午前10時35分、岡本選手は決勝レースのグリッドに向かうためにピットを離れた。このレースではマシンがグリッドに到着する前にスタッフ、観客がスターティンググリッドへ入ることが出来る為、片岡監督、荒井アンバサダーをはじめチームスタッフと、応援に来た個人スポンサーたちもグリッドに向かい、岡本選手を出迎えた。多くのチームのグリッドではチーム関係者数名が集まってレーススタートに備える風景が見られたが、最後尾グリッドの岡本選手の周りには彼女のデビューレースをこの目で見ようと詰めかけた初音ミクレーシングプロジェクトファン数十名がカメラを並べ、異様な盛り上がりを見せていた。
午前10時50分、フォーメーションラップ。エンジントラブルでグリッドにつけなかった225号車(KTMS VITA)を除く41台がグリッドに着くと、グリーンフラッグが降られ、レッドシグナルが点灯していく。すべてのレッドシグナルが点灯後、ライツアウト。10周のレースがスタートした。
4号車グッドスマイル 初音ミク VITAの岡本選手は初めてのスタンディングスタートを上出来にこなし、前方の集団に置いていかれることなくオープニングラップを無事に走って41位のままコントロールラインを通過した。
4周目、1コーナーで前にいた703号車(ハイスピードエトワールR VITA)がスピンした隙に前に出て40番手。さらに5周目の1コーナーで977号車もスピンした為、39番手へと上がった。しかし、977号車はすぐにコースへ戻り、ペースを取り戻してきたためオーバーテイクされ40番手へと戻ってしまった。
9周目、トラブルのせいか7号車、248号車の2台のマシンがピットに入り、一気に38番手へと上がった。
岡本選手は最後までスピンや接触をすることなく、10周を走り切り38位でチェッカーを受けた。
レース後は車検場で車両保管となるため、荒井アンバサダーやスタッフが保管場所のBパドックに岡本選手を迎えに行った。保管場所でマシンを降りた岡本選手は、スピンや接触せずにチェッカーを受けるというこのレースでの個人目標を達成し、さらに自力ではないもののポジションも上げてゴールできたことで、踊りだしそうなほど飛び跳ねて喜んでいた。
FCR-VITAのプログラムは午前中に終了したが、夕方には翌日のKYOJO CUP参加者向けに練習走行枠が設けられ、KYOJO CUPへの最後の練習走行をおこなった。
5月12日(日)
いよいよKYOJO CUPの開幕戦を迎えた。
今シーズンのKYOJO CUPには岡本選手を含む9名のルーキードライバーが加わり、過去最高の28台が年間エントリーしていた。
午前8時、予選開始。岡本選手のこの予選での個人目標は、自身のベストタイムを上回る2分3秒台だ。
コースオープンと共に意気込んでコースに入った岡本選手は、力みすぎたのかアタックを始めようとした2周目の1コーナーでいきなりスピンをするが、気を取り直してすぐにコースへ復帰、タイムアタックを続けた。5周目に2分6秒台、6周目には2分5秒台と順調にタイムを更新すると、7周目、一気にタイムを縮めて、自身のベストタイムとなる2分4秒245を記録して26番手に上がった。
8周目、さらにアタックを続け、ついに2分3秒974を叩き出して見事に目標を達成。この勢いのままさらにタイムアップを狙い翌周もアタックを続けたが、セクター2でスピンしてしまう。立て直して走行を再開するも、これ以上のタイム更新には至らずセッションを終了し、28台中26番手で予選を終えた。
パドックに帰ってきた岡本選手は、個人目標2分3秒台達成により、ピット裏に集まっていた岡本選手の家族やファンと喜びを分かち合い、ポールポジション獲得チームかと見紛う盛り上がりを見せていた。
午後10時15分、KYOJO CUPの決勝レーススタート進行が始まった。4号車グッドスマイル 初音ミク VITAの岡本選手がピットを離れ26番グリッドへ着くと、そこには前日以上に集まったファン達がカメラの放列を作り、グリッド後尾近くにも関わらず一番大きな人だかりとなって目立っていた。
10時45分、1周のフォーメーションラップを行い、再び26番グリッドへ着く。レッドシグナルが1つ、2つと点灯していき、5つ目が点灯したのちにライツアウト、12周の決勝レースが始まった。
岡本選手は抜群のスタートを決めて一気に前に追いついたが、1コーナーでスピンした36号車(KNC VITA)避けるためにコースの外側にはみ出してしまい後ろからきた77号車(PMR Harem VITA)にオーバーテイクされてしまった。同時に、スピン車両を抜いたため、ポジションは26番手のまま変わらず。
しかし14番手スタートの36号車は岡本選手より実力は上、スピンから復帰した後はすぐに追いつかれ、2周目にはあっさりオーバーテイクされ27番手に後退してしまった。
4周目、前方を走行していた559号車(MAX ORIDO VITA)がセクター3でスピンすると、岡本選手は再び26番手に。559号車はマシンにトラブルが発生していたため、そのままピットへと戻りリタイアとなった。
その後、更に前の144号車(ファーストガレージ大和設備工業VITA)を追いかけるが、相手のペースの方が速く、ジリジリとギャップを広げられてしまった。岡本選手は離されないよう懸命な走りで食らいつきレース中の自己ベストを更新するが、それでも前車に近づくことができない。そのまま12周を走り切り、26位でチェッカーを受けた。
初音ミクレーシングプロジェクト初の、そして岡本悠希選手にとっては人生で初めてのレースウィークは、ライバルチームとバトルができるレベルには至らなかったが、まずは車を壊さずチェッカーを受けるという一歩目の目標をクリアすることが出来、さらに岡本選手自身にとってのベストタイムを何度も更新するという、実り多いものとなった。
第2戦、第3戦は、7月20日、21日に全日本スーパーフォーミュラ選手権との併催大会で、大勢の観客の前でのレースとなる。練習を積み重ね、更に成長した姿を披露したい。